これまで観てきた映像作品の中で、もっとも心に残っているものは何か?と訊ねられれば、それは多分「Riverdance」の1996年ニューヨーク・ラジオ・シティ・ホール公演を収めた作品ではないだろうかと思うのだ。私は元来舞台というものが大嫌いであり、やはり映画の世界にこそ喜びを見出す人間であるわけだが、このVIDEOだけは別格である。1998年に購入して以来このVIDEO(残念ながらDVDではないんだな。DVDでも発売されているでしょうから、これから買う人はDVDで買いましょう)を何回観なおした事だろう。その度に馬鹿みたいに鳥肌たてて感動してしまうのだから、いやはや私も相当に進歩のない人間であるようだ。
1994年の誕生から随分と変化を遂げたこのリヴァーダンス・プロジェクトだが、その年月の間にはいくつもの映像作品を産み落としている。10周年を記念したベスト物から、その軌跡を追ったドキュメンタリー作品もあるわけだが、やはり一つの公演をまるまる収めた作品こそが一番のお薦めになるのは間違いないだろう。94年のオリジナル版を皮切りに、95年のダブリン・ポイント・シアター版(プリンシパル・ダンサーは当然マイケル・フラットレーとジーン・バトラー)、前述の96年ニューヨーク版(プリンシパルはコリン・ダンとジーン・バトラー)そして2002年の新装リヴァーダンスのスイス・ジュネーブ版(プリンシパルはブランダン・デ・ガリとジョアン・ドイル)といろいろあるわけですが、誰が何と言おうとニューヨーク版がベストではないかと、個人的には思います。ちなみに私は2000年の来日公演(ブランダン・デ・ガリ&ジョアン・ドイル&マリア・パヘスの面々)を生で観劇しているのですが、生の感動よりもニューヨーク公演のVIDEOの方が素晴らしいと本気で思っています。正直に言うと、映像のみで接していた時の方が、実際の舞台を観た後よりもカブレテいた気がしないでもないです。出来がどうとかアングルがとかいろいろ小理屈は付けられるのでしょうが、それだけ96年のニューヨーク公演が際立っていた結果なのではないでしょうか?新たな曲が付けられたり、構成が変わったり、衣装や舞台に金がかけられたり、当然プリンシパル・ダンサーも次々と変化するわけで、それぞれに一長一短はあるのでしょうが、もはや一つの巨大なショウとして定着してしまったものに、初期の躍動感や緊張感を取り戻すのは不可能なのでしょう。だったらオリジナル・プリンシパルの公演の方がよいのではないか?と言われるかもしれませんが、それはそれ、個人的には95年のダブリン公演版はショウとしての完成度がニューヨーク版よりも劣ると思うわけなのであります。
それにしても、このショウで主役を務めた男女の数はどれだけいるのでしょうか?公演の数が膨大なものであり、現在では世界のあちこちで同時にショウを披露しているわけですから、主役の人数も相当なものであるのは確実です。どうせベストを出すのなら、一回でも主役をはった人物全員にスポットを当てたものなんかを作っては頂けないものでしょうか?アイリーン・マーティン嬢のファンである私なんかは、一度でいいから一曲通して彼女の晴れ姿を見たかったわけです。ジーンやジョアンはもういいから、って気分にみなさんならないですか?まぁそれだけ繰り返し観てしまって飽きがきたともいえるのではありますが、それにしてもあっちでもこっちでもチラチラしか映らないアイリーン様、癖になりますね。素敵です。
リヴァーダンスというからにはダンスが主役なのではありますが、この舞台にはもう一つの魅力があります。それがリヴァーダンス・オーケストラであり、リヴァーダンス・シンガーズの存在であります。特にオーケストラの一員には、当初アイルランドでの名うての演奏家達が多数参加していたわけで、それだけでもアイリッシュ・ミュージックに傾倒している者にとっては夢のような時間に耳をそばだてる機会を得る絶好の瞬間だったわけです。実際ダンスよりも演奏に心惹かれた人もいるでしょう。実を言うと私もその一人です。ダンスだけだったら、多分一回観て終わりだったと思います。ニューヨーク公演でのフィドル奏者アイリーン・アイヴァースの存在なんかはその最たるものでしょう。私もついついアイリーン・アイヴァースのアルバムとか買っちゃいましたからね。それと映像では出てきませんが、オリジナルのCDではマーティン・オコナーがアコーディオンを弾いていたりするわけで、デ ダナン命の私なんかはわけもわからず興奮したりするわけです。
リヴァーダンスの音楽を手がけたのはビル・ウィーランなわけで、ビルの経歴として一つだけピックアップするとすれば、やはりプランク・シティへの参加になると私なんかは思うわけです。リヴァーダンスの音楽というのは、単純にアイリッシュ・ミュージックであるとは言えない多様性があるわけですが、少なくともプランクシティ参加時にビル・ウィーランがアイルランドの伝統音楽にどっぷり浸かったのは間違いないでしょう。リヴァーダンスの音楽の素晴らしさの根底に伝統的なアイリッシュ魂が潜んでいるからこそ、世界中に広まり根付いたアイリッシュの末裔達の心を鷲摑みし、しいては世界を市場にした巨大なビジネスの礎になったとは言い過ぎでしょうか?
日本ではエンヤやU2がそれなりに人気を博してはいるが、それらはアイリッシュ・ミュージックとはいささかかけ離れてしまっているものだし、少し前にはアイルランド・ブームの兆しもあったのですが、本格的に市民権を得るまでには至っていないようです。リヴァーダンスもまた然り。好きな人だけだ盛り上がっている感は否めません。ギネスを片手に、デ ダナンやパトリック・ストリートやドーナル・ラニーについてどうでもいい事を口走って「アイルランド賛歌」を皆で歌うという私の夢は、まだまだ実現するには遠い話なのですね。非常に残念です。リヴァーダンスがその入り口になるというのも、もう何度も来日公演を慣行している事実からして既に期待してはいけないのでしょう。
2008年の春に、リヴァーダンスの来日公演が決まっているようなのですが、今回は大した話題にもなりそうにありませんね。チケットは売れるのでしょう。熱烈な固定ファンというのは、実際どこにでもいるものです。特にリヴァーダンスの魅力にとり憑かれたら最後、死ぬまで忘れられない中毒症状にかかったようなものです。この作品はそれだけの力があるし、魅力に溢れていると断言出来ます。
どんな優れた名画も到達しえない次元の作品として「Riverdance live from New York City」は特筆に価する作品です。「ベスト・オブ〜」とかジュネーブ公演とかはマニアの方以外は観る必要がありません。来日公演はお金に余裕のある人が楽しみましょう。どうせチケットは一万円以上すると思われます。とても高いです。そんだけ高いと、素晴らしい作品を観られたとしてもどうしても遺恨が残ります。たかだか1800円でも酷い映画を観てしまった後の落ち込みは想像を絶します。私はどうしても躊躇してしまいますね。だって、ニューヨーク公演という最高峰の作品が既に手元に(VIDEOだけで)あるわけですから。それでも観にいってしまうのかなぁ、人間とは懲りない生き物だしなぁ。私も真性のリヴァーダンス中毒患者なのかもしれません。そこには間違いなく十本の傑作映画に匹敵する感動が待っていると、知っているからなぁ・・・
「リヴァーダンス live from New York City」 1997 アメリカ
出演 コリン・ダン ジーン・バトラー
マリア・パヘス

